今回のブログでは歯が欠けてしまったときの治療方法についての解説第二弾です。
以前のブログ「歯が折れてしまった時の治療法」では歯冠修復という治療について解説しました。
今回のブログでは、生活歯髄切断という治療法について解説していきます。
お家で欠けた歯を見つける際のポイントは過去のブログ「実は犬の歯は折れやすい!?」をご参照ください。
歯が欠けてしまうと
犬猫の歯は人と同じく、歯の中に神経や血管が通っています。
歯が欠けてしまい、神経(歯髄)が出てしまった状態を露髄と言います。
露髄が起こってしまうと、細菌が歯の内部に侵入し、細菌感染が起き、歯髄は壊死し、症状が進むと根の先の炎症「根尖性歯周炎」が起きてします。
また、露髄はしなくても歯が欠けて内部の象牙質が露出してしまうと、知覚過敏などの症状につながると言われています。
いずれにしても欠けた歯は放っておかずに適切な治療を施す必要があります。
露髄してしまった歯の治療法
歯が欠けてしまい、露髄を伴う場合、生活歯髄切断もしくは抜随治療が適応になります。
簡単に言うと生活歯髄切断は歯髄を温存する治療法、根管治療は歯髄を抜き詰め物をする治療法です。
歯髄を温存できるかどうかは以下のポイントが重要です。
・露髄してからの時間経過(1~2日以内かどうか)
・根尖周囲病巣の有無
・治療時の歯髄出血の時間(5分以内に止血できるかどうか)
下の写真は第四前臼歯が折れてしまったわんちゃんです。
円で囲まれた部分にうっすらと見えるピンク色の部分が露髄した歯髄です。
病変側だけ涎が多く、欠けた歯に痛みが生じている可能性があります。
この症例は上記適応に当てはまり、神経を温存する生活歯髄切断法にて治療を行いました。
生活歯髄切断
まず、破折部位が露髄しているかどうか全身麻酔下で歯科用レントゲンに加えて上の写真のエキスプローラーと呼ばれる器具で確認します。
この症例では破折部位が歯髄腔まで達して露髄していました。
次に露髄した部分の周囲を専用のドリルで削り、歯髄腔からの出血がどのくらいの時間で止まるのかを確認します。
この症例は2~3分ほどで血が止まりましたが、感染し炎症を起こした歯髄は出血が止まりにくいため5分以上止血に時間を要する場合は歯髄を除去する抜随治療への移行も検討します。
止血が確認できたら歯髄及び周囲組織の消毒を行います。
人ではこの際の洗浄液に消毒薬を用いることで、その後の歯髄温存期間が有意に延長したという報告があります。
消毒した病変をしっかり乾かしたら、歯髄をMTAセメントで封鎖します。
MTA(Mineral Trioxide Aggregate)セメントは、日本では2007年から販売されている歯科用セメントです。
成分は建築用セメントと類似しており、粒子を細かくし、有害物質を取り除いたものが歯科用セメントとして使用されています。
MTAセメントは水と反応して膨張し、封鎖性が高く生体に馴染みやすいよう改良されている上、歯髄での細菌感染を抑制できることから、生活歯髄切断で使用されます。
MTAセメントがしっかり硬まったら、歯科用のコンポレットレジンで表面を修復し歯の形状を形作ります。
まとめ
この症例は歯が折れてからの発見・治療期間までが短期間であり、全身麻酔下での検査でも歯髄を残せそうな状況であることが確認できました。
日頃硬いものを噛む習慣があるワンちゃんは第四前臼歯(奥歯)が非常に折れやすいため、毎日の確認がとても大切です。
神経を残せるかどうかは発見してから受診するまでの時間がとても重要ですので、お家で気付かれた際はすぐに動物病院を受診しましょう。
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