人の永久歯は28〜32本(親知らずの有無による)、犬の永久歯は42本です。
対して猫の永久歯は全体30本です。
それぞれの歯の本数を犬と比較すると、切歯(前歯)と犬歯(牙)の本数は同じですが臼歯(奥歯)が少ないのが猫の歯の特徴です。
肉食動物である猫は進化の過程であまり使用しない臼歯の数が減っていったのではないかと言われています。
臼歯は食べ物を噛む際に頻繁に使用するため歯垢や歯石がつきやすく、犬歯はおもちゃで遊ぶ際や喧嘩の際に使用するので折れやすい部位と言えます。お家の猫ちゃんの歯を見るときは上記のポイントに注意してみてあげましょう!
猫の歯の特徴はなんと言っても鋭さにあります。
肉食動物ならではですが、歯冠は非常に鋭利でエナメル質が薄いという構造をしています。
また、犬歯(牙)にはbleeding grooveと呼ばれる溝があり、この部位は捕食した獲物に噛み付いた際に血液を流出させるための構造と言われています。
また、猫の舌はザラザラしていることで有名ですが、
これは犬と違って角化した細胞(糸状乳頭)が舌の上に配置されているためです。
このザラザラした部分には味覚を感じる細胞はありません。
他の部位には味蕾があるため、味を感知すること事態はできますが
犬や人と違って甘みを感じる味蕾が存在しないため猫は甘味を感じることはありません。
対して酸味と苦味には非常に敏感という味覚の特徴を持っています。
猫の歯の病気で最も多いのは、犬と同じく歯周病/歯周炎ですが、次いで多いのが口内炎と言われています。
また、猫特有の歯の病気として猫の虫歯とも呼ばれる吸収病巣が挙げられます。
それぞれどんな病気でどんな症状なのか解説していきましょう。
猫の歯肉炎は歯石/歯垢の付着部位に起こります。歯の周囲に限局した赤みや腫れ(炎症)を引き起こし、
歯周の炎症は頬側に多いのが特徴で、口の上側(口蓋)や舌、口の後側(口腔後部)に生じることはあまりありません。
症状は口臭が強くなる程度でほとんどなく、気が付いたら歯が埋まっている歯槽骨や歯肉が後退し歯が抜けるほど進行してしまうことがあります。進行した歯周病は知覚過敏などの痛みに近い症状を呈することもあります。
対して口内炎は歯石、歯垢の付着が少なくても起こります。
また、歯肉だけでなく口蓋や舌にまで及ぶ粘膜の炎症で、特に口の後側(口腔後部)に著しい炎症を生じます。
症状は流涎や痛みが歯肉炎よりも顕著で、口を開けた時や食べ物を噛んだ時に突然鳴き声をあげたり口を触る動作をするなど強い痛みがみられます。
時にはその痛みによりご飯が食べられなくなってしまったり、攻撃的な性格に変わってしまうことすらある恐ろしい病気です。
歯肉炎の治療は歯周病がどこまで進行しているかによって変わってきます。
基本的には犬の歯周病と同じく、
・全身麻酔下で歯石を除去し、歯周ポケット内を清掃する
・歯周病が進行した歯を抜歯する
などの治療になります。
より具体的な治療内容は診療内容「歯石・口臭でお悩みの方へ」をぜひご覧ください。
また、歯周炎の原因となる歯石の沈着を予防するには歯みがきの習慣がとても大切です。
猫の歯みがきは犬以上に大変と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、練習によってできるようになります。
口内炎は猫の口腔内に生じる過剰な免疫反応によって引き起こされます。
細菌性、ウイルス性、免疫性など様々な要因が複合的に絡んでおり、正確な原因はわかっていません。
抗生物質やステロイド、痛み止めなどによる内科的な治療が奏功することもありますが、徐々に効かなくなってしまうという報告があります。
また、ステロイドの使用期間が長ければ長いほど、外科的治療後の症状消失までの時間が長くなってしまうという文献もあります。
このように、内科治療は根本的な解決にならないばかりか、効かなくなる、他の治療を邪魔してしまうリスクもあるため基本的に猫の口内炎は原因である歯を抜いてしまう抜歯処置が適応になります。
抜歯によって、歯が存在することによって起こる過剰な免疫反応を抑え、口腔内の衛生環境を正常に保つ効果が期待できます。
抜歯処置には2種類あり、前歯(切歯)と牙(犬歯)を残し奥歯(臼歯)をすべて抜歯する全臼歯抜歯と、切歯や犬歯も含めた全ての歯を抜歯する全顎抜歯があります。
前臼歯抜歯は60~70%の症例で内科的治療からの離脱や減薬に成功、全顎抜歯では60~95%の症例で内科的治療からの離脱や減薬に成功したというレポートがあります。
症状の程度や場所によっても治療方針は異なりますが、いずれにしても歯があることで一生続く症状を和らげるには、麻酔リスクを適正評価した上で歯を抜いてあげるのが一番の近道だと言えるでしょう。
みなさんは猫にも虫歯があるのをご存知でしたか?
ただ、ひとこと虫歯と言ってもその見た目や病態は人の虫歯と大きく異なっています。
人の虫歯はいわゆる虫歯菌が食べ物に含まれている糖質をもとに酸を産生し、歯が溶けてしまうことで生じます。
進行すると神経にも感染を起こし、痛みを伴います。
対して猫の虫歯は、吸収病巣、破歯細胞性吸収病巣などとも呼ばれ原因は特定されていませんが、20〜67%もの猫が罹患していると言われています。上のレントゲン写真のように歯が虫食い状に吸収されてしまったような見た目をしていますが、歯の見た目はそれ以上に特徴的です。
上の写真のように、ピンク色のお肉のようなものが歯の表面を覆っているのが虫歯発見の第一歩です。
これは吸収された歯を補うように炎症性の肉芽が付着したものと考えられています。
下の猫ちゃんの写真を見てみましょう。
向かって左側の歯が、右側に比べると赤矢印分だけ伸びているように見えますね。
これは歯の挺出と呼ばれる症状で、実際は歯が伸びているのではなく歯全体が下に向かって移動しているためこのような外見になります。
歯の挺出は猫に特有の症状で6歳以上の猫に見られますが、その原因は分かっていません。
上顎だけではなく、下顎の犬歯にも同様の症状が認められることがあります。
猫の虫歯を患っている子では犬歯の挺出が有意に多かったという報告があります。延びている犬歯だけではなく他の歯にも虫歯が起こっていることもあるそうです。
また、犬歯が埋まっている部分では歯槽骨に歯が埋まっている部分が少なくなることで、歯がグラグラしたり抜けてしまうこともあります。逆に歯根膜腔が拡大すると歯周病や歯槽骨炎を引き起こしてしまこともあります。
猫の歯の挺出は基本的には治療対象であることが多いため、飼い猫の犬歯が延びてきていると感じた方は動物病院を受診しましょう。
猫で最も折れやすい歯は犬歯という報告があります。
犬に比べて硬い物を噛む習性がない猫は奥歯が折れることはあまりなく、喧嘩やぶつけるなどの外傷によって犬歯が折れてしまうと言われています。
折れた歯を放置すると歯の神経から感染を起こしてしまう恐れがあります。
感染が進行すると顔が腫れる・片側だけで物を噛むなどの症状を伴い、最悪の場合歯を抜かなければいけなくなってしまいます。
初期の病巣であれば神経を抜き、詰め物と被せ物をする根菅治療が適応になり、歯を温存することができます。
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